脇町十二勝詩集
先日、インターネットのオークションで「脇町十二勝詩集」という小冊子を落札しました。脇町とは徳島県の脇町(美馬市)でうだつの町として知られています。ここは江戸時代、蜂須賀藩の一番家老稲田氏の領地で、明治初めの稲田騒動の舞台となった町でした。
個人的に興味を持ったのは、小生の母方の曾祖母が幕末、この地で勤王の志士としてちょっと名が残っている南薫風の娘だったからです。
さて、この書は明治二十年頃、この地にあった14名の漢詩サークルの詩集です。中心人物は三宅舞邨のようで、彼らが脇町周辺の景観のよい十二の場所を定めて、各自がそれぞれの場所の詩を読んでいます。巧拙のほどはわかりませんが、ほとんどが平易な詩です。一部に岡本韋庵の評が付いていますので、彼に校閲を請うたのでしょう。
岡本韋庵(監輔)はこの地の出身で樺太探検家として有名ですが、後年は一高の講師として漢学を教えたり、徳島中学の校長をして、教育家として活躍したようです。
三宅舞邨 「尾山落葉」
山邨人影少 山村 人影 少(まれ)にして
風急夕陽天 風は急なり 夕陽の天
落葉飛如雨 落葉 飛ぶこと雨の如く
灑来古渡辺 灑(そそ)ぎ来る 古渡の辺
大久保天山 「白木夜雨」
風雲抹月月如煤 風雲 月を抹(け)して 月 煤(すす)の如し
簷外松琴絶点埃 簷外の松琴 点埃を絶す
炉鼎煮茶茶未熟 炉鼎 茶を煮るに 茶未だ熟さず
坐聴凍雨撲窓来 坐(そぞろ)に聴く 凍雨の窓を撲って来たるを
千田老泉 「上野暮鐘」
浴余独倚欄 浴余 独り欄に倚れば
晩眺多詩思 晩眺 詩思多し
隠隠度花来 隠隠として花を度りて来たる
鐘声何処寺 鐘声 何処の寺ぞ
鈴木菊洲 「舞村晴嵐」
菜花金満畝 菜花 金 畝に満ち
蕩蕩午風暄 蕩蕩として午風暄(あたた)かなり
如遠又如近 遠きが如く又近きが如し
煙嵐擁水邨 煙嵐 水邨を擁す
蜂谷紫洲 「高越残雪」
水村煙暖時 水村 煙暖かなる時
山郭花開節 山郭 花開く節
越岳聳青霄 越岳 青霄に聳ゆ
猶残去年雪 猶残す 去年の雪
引用図書
脇町十二勝詩集 千田清治郎編集・発行